名ばかり管理職とは
「名ばかり管理職」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
平成20年1月、大手ファーストフードチェーンの事件で、「管理監督者」の範囲について問題になりました。この裁判では、チェーン店の店長が労働基準法で定める「監督もしくは管理の地位にある者」(管理監督者)には該当しないとして、未払いの割増賃金請求を認めるという判決がなされました。
この判決により、大手コンビニエンスストアでは、店長に時間外手当を支払う方針に転換したり、同様なケースにおける割増賃金の遡及払いを命じられる企業が急増したりと、ますます社会問題化しているといえます。
①名ばかり管理職
「店長」「課長代理」「係長」といった役職名だけをつけて、実質的にはほとんど権限を与えられていない肩書だけの管理職のことをいいます。
「名ばかり管理職」は、長時間労働など過酷な労働を強いられるのにもかかわらず、残業手当や休日手当が支給されない等、様々な問題を抱えています。
【「名ばかり管理職」の問題点】
- 残業や休日出勤が多いのにもかかわらず残業代が支給されない。
- 利益が出ないと給料がカットされる。
- パート・アルバイト等の管理が大変である。
- 採用権限がなく、忙しい時は自分自身が働くことになり休日が取れなくなる。
- 遅刻すると給与が減額される。
- 部下が1人もいないのに管理職扱いされる。
- 残業代が支給されないため管理職になる前より、給与総額が下がった。
②労働基準法で定める「管理監督者」とは・・・
労働基準法第41条は、「監督若しくは管理の地位にあるもの(いわゆる「管理監督者」)」について、労働時間、休憩および休日に関する規定の適用の除外を認めており、管理監督者に労基法上の時間外割増・休日割増賃金の支払いは不要です。
ただし、必ずしも「管理職」イコール「管理監督者」といえるわけではありません。
◆労働時間等に関する規定の適用除外(労働基準法第41条)
労働時間、休憩及び休日、年少者及び妊産婦等で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
- 農業(林業を除く)又は水産・畜産業に掲げる事業に従事する者
- 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
- 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
労働基準法の「監督もしくは管理の地位にある者」(管理監督者)とは、原則として部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、これに該当するかどうかは名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされています。(昭22.9.13 基発第27号、昭63.3.14 基発第150号)
◆具体的な判断ポイント
- 経営方針の決定に参画しまたは労務管理上の指揮権限を有しているか、
- 出退勤について厳格な規制を受けず自己の勤務時間について自由裁量を有する地位にあるか否か
- 職務の重要性に見合う十分な役付手当等が支給されているか否か
- 賞与について一般労働者に比べて優遇措置が講じられているか否か 等
③厚生労働省の通達
前述の大手ファーストフード店の判決を受けて、是正を求める声が広がりました。それに押されて厚生労働省から「管理監督者の範囲の適正化について」という通達が出されています。(平成20年4月1日基監発第0401001号)
通達はこちら → http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/siryo/pdf/20080404.pdf
この通達は、「名ばかり管理職」問題に対して、当面、労働基準監督機関がどのように対応を行うのか明らかにしたものです。
「管理監督者の範囲の適正化について」通達のポイント
- 1)
- 労働基準監督機関として、労働基準法上の管理監督者の趣旨及び解釈例規の内容について正しい理解を得られるよう十分な周知を行う
- 2)
- 管理監督者の取扱いについて、労働基準監督機関に相談があった場合「管理職」が直ちに「管理監督者」に該当するものではないことを明らかにした上で、上記の趣旨及び解釈例規の観点を十分に説明する
- 3)
- 管理監督者の取扱いについて問題が認められるおそれのある事案については、適切な監督指導を実施する
その後平成20年9月9日に「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」という通達が出されました。(平成20年9月9日付け基発第0909001号)」
通達はこちら → http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/dl/h0909-2a.pdf
この通達は、「名ばかり管理職」として、多店舗展開企業における小規模な店舗の店長等について、十分な権限、相応の待遇が与えられていないにもかかわらず、労働基準法上の管理監督者であるとして、長時間労働を行わせるなど不適切な事案がみられることから、こうした事態に対処し、管理監督者の範囲の適正化を図る目的で出したものです。
多店舗展開する小売業や飲食業を対象とした、管理監督者性を否定する重要な要素
- 1)
- アルバイト・パート等の採用に責任と権限がないこと
- 2)
- 部下の人事考課について職務内容に含まれず、実質的にも関与しないこと
- 3)
- 遅刻や早退等により減給の制裁等の不利益な取扱いをされること
- 4)
- 時間換算の賃金額がアルバイト・パート等の賃金額と同程度以下であること 等